モノづくりエンジニアのための情報ポータルサイト|エンジニアピット

CAREER LAB【ミドリムシが地球を救う】第3回 食物への応用だけではないミドリムシ

【ミドリムシが地球を救う】
第3回 食物への応用だけではないミドリムシ
CATEGORYトレンド
DATE2017/01/24

前回まで、主に食物としての応用に関連したミドリムシの性質と、現在での応用事例を紹介しました。第3回では、それ以外に注目されるミドリムシの性質と、バイオ燃料やミドリムシプラスチックなど最新の研究開発動向のお話です。

油脂を生成

ミドリムシは、体内に油脂を生成します。さらに、ミドリムシの培養方法を制御すれば、その油脂の性質や生成量を変化させることも可能なのです。この性質を活かして、後述するバイオ燃料などの研究開発が行われています。

強い二酸化炭素耐性

植物は光合成に二酸化炭素を使用しますが、その濃度が高すぎても成長が阻害されてしまいます。ミドリムシは、一般的な植物では成長が阻害される高濃度(15~40%)の二酸化炭素でも成長が促進されるために、工場や発電所などから排出される二酸化炭素を利用しての培養も可能とのこと。

有機物、無機物を食べる

ミドリムシは、アンモニア、リンを含んだ有機物および重金属などの無機物を栄養素として増殖するそうです。富栄養化した水質をきれいにする作用がありそうです。

燃える?!

現在、注目を集めているのは、ミドリムシを用いたバイオ燃料の生産です。ご存じのとおり地球温暖化の問題は深刻化しています。二酸化炭素の排出削減、または排出された二酸化炭素を吸収、利用することが世界的にも重要な課題になっています。最近の動向としては2015年12月のCOP21で「パリ協定」が締結され、2016年11月に発効しました。
そんな中で、植物を原料とする再生可能エネルギーであるバイオ燃料が注目されてきています。植物は、二酸化炭素を吸収して光合成を行って成長しますから、理論的には植物由来の燃料であれば、それを燃やしても大気中の二酸化炭素は増加しないことになります。これを「カーボンニュートラル」と言います。
バイオエタノール、バイオディーゼルって聞いたことがありませんか? 自動車燃料として一部で使用されています。最初に開発されたバイオエタノールの原料はトウモロコシやサトウキビで、食物と競合します。少量を生産している間は問題になりませんが、大量生産となると、食物の供給量を減らしたり価格を上げたりしてしまう要因にもなりかねません。
次に注目された原料が、稲わら・麦わらや雑草、木材チップに含まれるセルロースですが、これは、セルロースを分解する前処理工程が必要だという問題があります。セルロースは1本1本が束になっており、セルロースをほぐして分解しやすい状態にするために、エネルギーを使用してしまうのです。
そこで今注目されているいるのが、ミドリムシを含む、微細藻類によるバイオ燃料生産なのです。これには、3つの利点があります。①微細藻類は農業と競合しない、②微細藻類は工業的な生産が可能、そして③微細藻類は単位面積当たりの生産性が高い、ということです。

単位面積当たりの生産性が高い微細藻類

微細藻類は、単位面積当たりの生産性が高いために、必要な面積が少なくて済みます。
図1は、世界中のジェット燃料をバイオ燃料で生産した場合に必要な面積比較です。
円2、3、7は比較対象の国や州の面積、円4はバイオエタノールの原料になる世界のトウモロコシの年間作付面積です。円5のカメリナはアブラナ科アマナズナ属の植物で、種子から精製した油がバイオ燃料として使用されています。円6ジャトロファは、トウダイグサ科タイワナブラギリ属の植物です。実から精製した油はジェトロファ燃料というバイオ燃料になります。

図1 世界中のジェット燃料をバイオ燃料で生産した場合に必要な面積比較
図1 世界中のジェット燃料をバイオ燃料で生産した場合に必要な面積比較

出典:株式会社ユーグレナ 有価証券報告書(2015)

ジェット燃料に最適

バイオジェット燃料開発のきっかけは2010年でした。当時、航空輸送分野においても二酸化炭素排出量の削減が必要とされており、海外を中心にバイオジェット燃料の研究開発が進んでいました。このような状況下、ANAおよびJALからのバイオジェット燃料開発の要望を、新日本石油(現:JXエネルギー)が受け、ミドリムシのバイオジェット燃料化の検討が開始されます。培養などのプロセス技術を有する日立プラントテクノロジーおよびミドリムシの培養技術を持つユーグレナ社とともに共同研究がスタートすることとなりました。
なぜなら図2のグラフに示すように、ミドリムシの含有する油脂成分の炭素数がジェット燃料に適した炭素数(9~15)を多く含んでいるからです。他の藻類では、より炭素鎖の長い油脂成分を多く含んでおり、必ずしもジェット燃料には適していません。

図2 代表的な藻の炭素分布
図2 代表的な藻の炭素分布

出典:株式会社ユーグレナ 有価証券報告書(2015)

ミドリムシの品種改良に成功!

バイオ燃料に関連した研究開発では2016年に大きな進展がありました。
㈱ユーグレナ、東京大学、理化学研究所などが「油を多く産生するユーグレナ変異体を選抜する品種改良法の開発に成功した」と、発表しました。
ミドリムシは、今までは微生物の品種改良に必要な「変異原処理」および「個体選別技術」が確立されていなかったために、目的の特徴を持つミドリムシを選び出すことができていませんでしたが、今回の研究で、個々のミドリムシの油脂含有量を観測する方法を確立。さらに油脂含有量の多いミドリムシ(=ユーグレナ)の変性体を選抜取得することができました。今後のバイオ燃料研究への展開が期待されています(図3)。
詳細は下記参照。
「油を多く産生するユーグレナ変異体を選抜する品種改良法の開発に成功」、2016年5月23日株式会社ユーグレナ、東京大学、理化学研究所、科学技術振興機構(JST)、内閣府政策統括官(科学技術・イノベーション担当)

図3 多様なミドリムシを含む集団の作出と変異体の選抜
図3 多様なミドリムシを含む集団の作出と変異体の選抜

出典:「油を多く産生するユーグレナ変異体を選抜する品種改良法の開発に成功」、2016年5月23日を参考に筆者作成

プラスチックにもなる

2013年1月に、産業技術総合研究所、日本電気株式会社、宮崎大学の共同研究として、ミドリムシを主原料とするバイオプラスチックを開発したと発表しました。
研究では、バイオプラスチックの新しい原料として、ミドリムシに含まれる成分である「パラミロン」と、そのパラミロンがミドリムシ体内で分解されて生成する「ワックスエステル」に着目しました。パラミロンは、第2回でも説明したとおり、ミドリムシが体内で作る多糖(β-1,3-グルカン)で、ワックスエステルもミドリムシ体内に大量に存在し、加水分解により長鎖脂肪酸と、高級アルコールになります。このβ-1,3-グルカンに長鎖脂肪酸を有機合成の手法で付加したものが、プラスチックの原料となるパラミロン誘導体です。これを、プラスチックの成形法としてよく知られている射出成形法でミドリムシ由来の成分70%も含むバイオプラスチックを作りました(図4)。
詳細は下記参照。
・「ミドリムシを主原料とするバイオプラスチックを開発」、2013年1月9日
・「ミドリムシプラスチックの開発」、産総研TODAY 2013-06, p21

図4 ミドリムシからミドリムシプラスチックへの製造工程
図4 ミドリムシからミドリムシプラスチックへの製造工程

出典:「ミドリムシプラスチックの開発」を参考に筆者作成。ミドリムシ写真はウキペディアより引用

ミドリムシ産業の未来とは

2015年12月に、ユーグレナ、横浜市、千代田化工建設、伊藤忠エネクス株、ANAホールディングス、いすゞ自動車の1市4社は、「国産バイオ燃料計画」を開始すると発表しました。
計画によれば、2018年には、バイオ燃料製造実証プラントを稼働させ、2020年までには、バイオジェット・ディーゼル燃料の実用化を目指しています。
現在のところ、開発の大きな課題はコストのようです。航空機燃料に適した炭素数の油を選択的に生産できるよう品種改良が進み、それを大量培養できれば、コストの問題も解決するかもしれません。品種改良法は開発できたようですから、まさにこれからでしょう。

ところで、バイオ燃料向けのミドリムシ培養の研究開発を行っている国内企業は、ユーグレナだけではありません。神鋼環境ソリューションは独自で進めているようです。IHIは、ミドリムシではない別の藻でのバイオ燃料生産を目指しています。いずれにせよ、この分野の市場は今後期待できそうです。競合が多い方が市場も活性化しますので、多く企業が頑張っていただきたいものです。

食物として、またバイオ燃料用として有用なミドリムシですが、正直なところ、「ミドリムシが本当に地球を救う」のには、まだまだ研究開発も必要です。しかし、様々なポテンシャルを秘めた生物であることは確かです。

さらに、研究開発と製品化に携わっている企業および大学、研究機関のチームがまだ若い、ということも、その勢いで問題を突破していくのではないかという期待も持てますし、大手を逆に巻き込んでいくしたたかさもすごい。ただ、急成長による組織作りはこれも経営学の教科書どおり心配なところではあります。


エンジニアピット キャリアラボ一覧へ戻る