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CAREER LAB世界に誇る日本の消防技術 最新の消防車は空気で消す!?

世界に誇る日本の消防技術
最新の消防車は空気で消す!?
DATE2017/10/11

創業者の森田正作氏が、日本初のガソリンエンジンによる消防ポンプを完成させて今年で110年。消防車メーカーとして国内最大手で、シェアはなんと57%。はしご車に限れば95%を誇り、世界においても指折りの企業として知られる。2017年3月期の純利益は過去最高益を更新している。2015年には世界100か国に販路を持つフィンランドの消防車メーカーを104億円で買収し、グローバル展開にも一層拍車がかかっている。そして今、この会社が開発した次世代消防車に注目が集まっている。それはなんと「空気で火を消す」というのだ。今回、兵庫県三田市にある工場にお邪魔し、技術研究所課長の関修治氏に話を聞いた。

モリタホールディングス技術研究所課長
関 修治氏

―まず、このモリタホールディングスという会社が躍進している理由とは何でしょうか。

この消防車製造という市場は、日本国内では人口の減少や自治体の消防本部の減少などから、成長市場ではありません。それでも私どもが業績を伸ばせていけているのは、やはり技術開発力と人材だと思います。
時代によって起こる火災の種類や、燃えている素材などは変化します。それにいち早く対応する技術を生み出していくことが重要だと考えています。また消防車製造のノウハウを生かしてゴミ収集車やバキュームカーなどの製造もおこなっています。また国内市場の成長は右肩上がりというわけにはいきませんので、現在すでに行っているアジアや中東圏への輸出だけでなく、フィンランドの企業を買収してグローバル展開を加速しているのです。

株式会社モリタホールディングスの三田工場。多種多様な消防車両がズラリと並ぶ

―今回、その技術力によって新たに開発した消防車は、なんと「空気で消す」というもの。「窒素富化空気(NEA)システム」というようですが、まずそれはどういったものか教えてください。

まず、空気というのは窒素78%、酸素21%、その他が1%という構成比になっています。この空気を圧縮して窒素分離膜という設備に送り込むことで、窒素と酸素を分離させることができるのです。これで窒素の濃度を85%以上に高めた「窒素富化空気」を生成し、それを出火箇所に向けて放出することで酸素不足となって火が消えるというものです。火災現場では、燃えている素材によって水を使えない状況もありますし、重要な文化財などが水濡れ被害に遭うことも避けられます。

窒素富化空気(NEA)システム。コンプレッサーから送られた圧縮装置が窒素分離膜を通ることで「窒素=N2富化空気」と「酸素=O2富化空気」に分けられる

―窒素と酸素を分離する割合も自由に変えることができるのですよね。

このシステムのポイントはそこにあります。ずばり“人の命”です。気体で消火する場合、現在のガス系の消火設備では気体には酸素がほとんどなく、現場に人がいれば酸欠で命を失いかねません。そこで「人が生存でき、かつ火が消える酸素濃度」である必要があります。それが酸素14%程度なのです。このシステムでは、その割合を作り出すことができます。もちろん現場に人がいないことが確実なのであれば、ほとんど酸素のない空気を送り込むこともできます。しかも、これは消火だけでなく“防火”に対応することも可能です。絶対に燃えては困る空間、例えばデータセンターなどの空気を、あらかじめ酸素14%に設定しておくことで「燃えない空間」を作ることもできるのです。その空間に人が入る時だけ酸素比率を上げればいいのです。

窒素と酸素の比率は自由に変えることができ、それはデータとして表示される

―この技術が生まれるきっかけとなったこととは何でしょうか。

それにはまず、消防技術の生まれるきっかけの話が必要です。消防技術は、常に新たな課題への対処として生まれてきました。弊社の主力である「泡で消す消防車」も、阪神淡路大震災において消火のための水を確保することが難しかったという課題を解決するために生まれました。必要な水量は、通常の消防車の10分の1で済みますから。

―空気で消す消防車も、何かしらの課題を解決するために生まれたということでしょうか。

きっかけとなったのは2001年に発生した、新宿・歌舞伎町の雑居ビル火災です。屋内階段の狭さ、建物内に障害物が多数あり消火栓からの水供給が難しかったことなどから、効率的に水をかけて消火することができず、44名もの犠牲を出す大惨事となりました。これをきっかけに消防法が大幅に改正されましたが、私どももまた、この火災の重大性を感じていました。社内の技術者たちは『どうすればこの早い段階で消火できたのだろう。人々を助けることができたのだろう』と考え続けていました。そして「水をかけるのではなく気体を流し込んで消火できたらもっと多くの人を助けられたのではないか」という結論に至ったのです。

―今までも窒素や二酸化炭素を用いて消火するという装置はありました。今回のシステムは何が違うのでしょうか。

それらの装置は貯蔵しているボンベ内の気体を利用していることから、その気体が無くなれば終わり。長時間の消火活動ができないなどの制約がありました。さらにそれらは屋内の固定式設備であって自由に移動ができませんでした。私どもには、この「窒素富化空気(NEA)システム」を搭載した消防車両「Miracle N7(ミラクル エヌセブン)」がありますので、火災現場に移動することができます。その現場に“空気”と、それをシステムに送り込むコンプレッサー用の動力さえあれば、継続的に消火活動を行うことができるのです。

窒素富化空気(NEA)システムを搭載した消防車両「Miracle N7(ミラクル エヌセブン)」

―2012年にはその「Miracle N7」第1号車を日本原燃株式会社に納入されました。

そうですね。日本の原子力発電所は東日本大震災以来、消火設備の基準が大きく高まりました。そこで、日本原燃さんからは「その基準に沿って、これこれこういう状況で、こういうものが燃えた場合に消火できる設備はないのか」という大まかな相談がありました。
私どもからすれば、長年研究してきた「窒素富化空気(NEA)システム」がお役に立てることが分かっていましたので「待ってました」という感じでした。それで「Miracle N7」をご提案し、納入することになったのです。
移動できる車両でなければならないことにも理由があります。原子力発電所はテロの対象となる可能性もあり、固定式の消火設備であればそれを狙われたら終わりです。移動式であればその時点でどこにあるか分かりませんから。

―この「Miracle N7」の特徴を端的に示すものとして2015年にドイツで開催された世界最大級の消防防火展「INTERSCHUTZ」に出展したのがコンセプトモデルの「Habot-mini(ハボットミニ)」ですね。

「窒素富化空気(NEA)システム」とは何かということと、酸素濃度が0%でなくても火が消えることを分かりやすく説明するためのコンセプトモデルです。我々の消防車両は発注者の要望に沿った形で作る受注生産ですので、「Miracle N7」も要件に応じてさまざまな形に変えることができることも表現したかったのです。
ベビーカー程度の大きさで、将来的には人が入って行けない場所でも活躍できる可能性を示したものでもあります。AI(人工知能)やIoT(モノのインターネット)などの技術を取り入れ、消火活動以外にもさまざまな用途で使用することもイメージしています。

Habot-mini(ハボットミニ)。中央にある4本のパイプ状のものが窒素分離膜で、象の鼻のような吐出ホースから窒素富化空気を出す
Habot-miniが、酸素濃度14%程度で消火するシーン。ミニチュアのビルの中に酸素14%程度にした窒素富化空気を流入すると、ビル内にあるロウソクが次々と消えていく

―今後もこのような新たな技術を世に送り出されることと思います。現時点で、次代に向けての新たなアプローチがあればお教えください。

消防という分野の研究を日々重ねていますが、実際の消防現場の状況は千差万別。我々が数年前には想像もしていなかった火災も発生しています。そこで生まれている課題に対して我々がクリアできていないものの方が多いです。例えば金属火災や大規模火災では、ほとんど“消えるまで見ている”しかなかったという事例もあります。それらすべてに対応できる消防技術を開発することを目標としつつ、まずは何を優先して解決していくべきかが重要だと考えています。
また、大規模火災などでは、天候や風向きも考えて消火手順を考えるという意味で情報技術、AIの導入なども検討する必要があるのではないか。今後はそのような展開を模索していきたいと考えています。

取材・文 宮本昭仁


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