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CAREER LAB量子コンピュータがついに来た?

量子コンピュータがついに来た?
CATEGORY学び
DATE2016/07/05

2015年12月8日、NASA・Google・USRA (米大学宇宙連合)が、 1000個の変数を持つ組合せ最適化問題を、D-Wave Systems社の量子コンピュータを使って解いたところ、通常のコンピュータの一億倍の速さで答えを導き出したと、発表しました。
まだまだ、遠い先のことを考えられていた量子コンピュータでいきなり実施例が出てきて、世界の注目を集めました。

さて、本当のところ、どうなのでしょうか?
量子コンピュータとは、「量子力学的な重ね合わせを用いることで、従来型コンピュータ・スーパコンピュータでは実現し得ない規模の並列コンピューティングが実現するコンピュータ」となります。
量子コンピュータには、大きく分けて二つ、細かく分けて三つの実現方式があります。

量子コンピュータ実現方式の系譜
量子コンピュータ実現方式の系譜

一般的にイメージされている量子コンピュータとは「2値トランジスタを多値量子ゲートに置き換えて」作るコンピュータであり、量子ゲート方式と呼ばれる方式です。
D-Wave Systemsの量子コンピュータは、一般に言われる量子コンピュータとは系譜が異なり量子アニーリングを用いているのです。

量子アニーリング方式とは何?

さて、量子アニーリングとは何でしょうか?

要素技術の積上げとロードマップ
要素技術の積上げとロードマップ

アニーリング (Annealing)とは”焼きなまし”のことです。昔からある金属加工の手法で、金属に熱を加え原子を振動させ配列を均質化させることで、内部構造からヒズミ・ストレスを取り除き、内部構造を均質にする処理のことです。
自然現象はエネルギー準位が低い状態を指向するのですが、統計力学的に見た場合、均一度が高いほど、エネルギーレベルが低い状態となります。

この自然現象をコンピュータ上でシミュレーションすることが組合せ最適化問題の近似解法として有効であることが、1983年にKirkpatrick氏らによって発見されました。この手法はシミュレーテッド・アニーリング法(SA法)と名づけられ、今も多くの場面で使われています。
問題は、このSA法ですと、膨大な量の反復計算が必要になります。計算時間が必要です。

そこで出てきたのが量子アニーリング法です。
量子力学ではすべての状態 (組合せ) が”確率”という形で同時に存在できます。いわゆる「量子力学的な重ね合わせ」です。この確率波を適切に処理することで、一つの状態 (組合せ) だけが残ります。この残った値が最適解となるのです。

「この計算時間が、D-Wave Systems社の量子コンピュータを使うことで1億分の1になった」というのが、冒頭のNASAの発表でした。

もちろん、ここでは現実をどのようにしてモデリングするかという課題もあります。その事は、本記事の範疇ではないので、省略します。

終わりに

量子コンピュータは、現在のコンピュータのアルゴリズムをすべて踏襲することを今はできません。背景には、量子コンピュータのハード的な構造が現在のコンピュータのアーキテクチャーとは異なるからです。今のコンピュータのアルゴリズムが使えなくても、用途によっては、利用価値は高いと言えます。

実は、パターン認識・自然言語処理を含む機械学習は、最適化問題として定式化されています。
汎用性は低いとはいえ、現行コンピュータとは桁違いの速さで実現できる量子アニーリングを機械学習に応用すれば、パターン認識・自然言語処理等の分野において人工知能の高速化が進むでしょう。
今、人工知能開発で先行しているのはGoogleですが、そのGoogleがこのNASA発表に加わっていることは非常に興味深いことともいえます。

さて、もし、「量子コンピュータは来たか?」と聞かれたら、なんと答えましょうか?

  • 冒頭の発表で使われたD-Wave Systems社のD-Wave Twoは512量子ビットで、2の512乗の状態を同時に計算できます。現在最速のスーパコンピュータで2の20乗程度ということを考えると、計算速度は桁外れ
  • 量子イジング方式の量子コンピュータはプログラマブルではなく、コンピュータとは言い難い。
  • 最適化問題に特化しているとはいえ、機械学習/人工知能の性能を一気に拡大させるドライバであり、自動車・人工知能の市場からはおおいに歓迎されるはず。
  • プラクティカルに考えれば、「量子コンピュータが来た」と言っても良い、であろう。

もし、「日本は量子コンピュータでも、又、あと追いになるのか?」と聞かれたら、なんと答えましょうか。

  • 量子イジングマシン方式の研究・実用化に日本は大きく貢献している
    • 量子アニーリング方式を考案したのは日本人 (1998年、東工大)西森教授稔氏と門脇正史氏(博士論文))
    • レーザネットワーク方式の動作確認も日本の国立情報科学研究所 (2014年3月。2019年実現を推進中)
  • 製品化・実サービスへの応用でリーダシップを取っているのはアメリカ
    • D-Wave Systemsが、16量子ビット版と28量子ビット版を2007年に、128量子ビット版を2011年に、512量子ビット版を2013年に発表
      • 特許保有数ランク; IBM > HP > 富士通 > D-Wave Systems
    • NASA・Google・USRAの計算は2015年12月
    • ロッキード・マーチン社が研究開発に導入したのは2011年5月
    • ハーバード大学がタンパク質フォールディング研究に導入したのは2012年8月
  • 日本は後追いではありません。しかし、製品化・実用化では日本はアメリカに遅れています。日本は、基礎研究は産学連携で進んでいますが、アメリカのD-Wave SystemsやGoogle等のようにビジネスを仕掛ける企業が出てきていません。それが課題です。

もし、「量子コンピュータ研究はゴールに近い?」と聞かれたら、なんと答えましょうか?

  • プログラマブルであるためには量子ゲート方式が必要だが、実現時期は不明
    • アルゴリズムができていない
    • 言語ができていない。
  • ゴールは、まだまだ、遠い。やることはたくさん、あります。

90年代までは、アメリカの発明を日本が製品化する構図が大半でした。最近は、その逆の構図が目立ってきたように思います。
ビジネスのタネは、実は、足元にあるのかもしれません。
日本の若手エンジニアの皆さん、がんばりましょう。


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